谷崎潤一郎「蓼喰う虫」

谷崎さんの中期の作品、らしい。

彼は関東大震災を罹災して、東京から関西へ移住しているため、移住者の目で様々な文化を見ているように思われる。この作品は関西に移った頃、だったはず。もっと後の作品になると、関西どっぷりの目で表現されているけど、この頃はまだ比較的中立的な視線で様々な物をみていて、そして常に東と西を比較しているのが面白い。

というか、自分が東京にやってきたばかりのことを思い出す。いや、今でもまだ自分が東京の人になったとは思えないけれども、かといって岡山の人かと言うとなかなかそうとも言えなくなってきた、というのがおそらく正しい現状分析だろう。なんどか引越をしたけれど、どうもそこに「住んでいる」という実感が少ない。要町や三鷹台あるいは海の向こうのあの街も愛着はあるけど、やっぱり自分の街とは少し違う。

このまままだしばらく根無し草な感じが続くように思う。
10年も同じところに住めば変わるのか、それとも家庭でももてばかわるのか。まぁ、別に今の感じが嫌いなわけではないけれど。

作品の話に戻ると、「陰翳礼賛」のような話が端々に出てくるのもなかなか興味深く、久しぶりに再読したくなりましたとさ。

蓼喰う虫 (新潮文庫)

蓼喰う虫 (新潮文庫)