谷崎潤一郎「春琴抄」

この間読んだ「細雪」が衝撃的に良すぎて、谷崎の波が自分の中に来ています。でも、「春琴抄」はあまりピンと来なかったような印象。
とはいえ、もちろん楽しませてもらいました。


春琴抄 (新潮文庫)

春琴抄 (新潮文庫)

何かを失うことでさらに深い何かを得る、あるいは何かを削ぎ落とすことで深みに到達する、というようなモチーフは良くあることだけど、ここにはそういった美談を逆手に取った、倒錯的な(というとあまりに陳腐なクリーシェだけど)ものがある。
そこにはあくまでも、盲目である春琴の意固地なまでの自尊心があるだけであり、それを盲目的に信奉する佐吉がいるだけなのである。事件があろうがなかろうが、春琴は老いて行く限りいずれは佐吉は自らの目を潰したであろう。

結局は共依存に過ぎない、どこまでも閉ざされた二人の関係を淡々と綴るこの物語は、どこか箱庭を想起させる。それを外から眺める我々には触ることの出来ない世界であり、二人の触覚的な世界の追体験も結局は視覚的なものでとどまるしかなく、非常な距離感を読者に抱かせる。